小説『忍びの国』のあらすじ&感想 【“破天荒”とはこの事!】

痛快無比、奇想天外、破天荒。
この時代小説を表すならそんな言葉がぴったり来ます。

時は戦国、場所は「虎狼の国」と呼ばれた隠し国・伊賀。
この伊賀の国で起きた天正伊賀の乱を時にシリアスに、時にコミカルなタッチで描きます。

作者はあの「のぼうの城」で一躍ヒットメーカーとなった和田竜氏。

嵐のリーダー・大野智さん主演で映画化もされた珠玉の時代小説。

もはや時代小説の枠に収まりきらない珠玉のエンターテイメント小説、フィクションと事実が巧妙に織り成す世界観にどっぷりハマって下さい!

ブログ運営者より:
この記事の本文は読書家ライター・楽観さんに書いて頂きました!

小説『忍びの国』のあらすじ

忍びの国 (新潮文庫)

『忍びの国』のあらすじ①:伊勢の武人達と伊賀の虎狼達

時は戦国。血で血を洗う下克上の世界。

伊勢の国を治める織田信雄、あの戦国の覇王織田信長の次男が一騎当千の伊勢の武人、日置(へき)大膳、長野左京亮、柘植三郎左衛門を引き連れ、かつての主・北畠具教を討つという下克上そのものの場面から物語はスタートします。

今の主である織田信雄の命令とは言え、かつての主を討つ事に戸惑いと躊躇いを見せる日置大膳。
しかし戦国の運命は非情そのもの、結局大膳は北畠具教を討ち果たし北畠家は事実上滅亡、伊勢は完全に織田信雄の支配下におかれる事になります。

ところ変わって場所は伊賀。
伊賀は古来より「隠し国」と呼ばれた小さな国です。石高はわずか十万石程度。このちっぽけな国の中に大小八百を超える城館がひしめき、外の世界の事は預かり知らぬとばかりに地侍どもが争いに明け暮れていました。

争いに継ぐ争いは皮肉な事に伊賀人達の忍術の技を高めていったのですが、同時に伊賀人特有の心栄えも形成していってしまったのでした。

他国の者から見れば異常極まりないその酷薄な人情。
人を殺す事に何のためらいも見せないばかりか、自分の命を落とす事にも無頓着。殺戮を好み、必要とあらば友人だろうが恩人だろうが親族だろうが容赦なく殺す。
享楽的で自己の欲望にのみ忠実という、まさに人外の「虎狼」そのものです。

伊賀には大名と呼ぶべき存在はなく、十二人の地侍の合議によって運営されてました。
これを十二家評定衆と呼びます。評定衆と名はついているものの、この十二家もまた伊賀の習いに従ってそれぞれが下らない理由を元にした小競り合いを続けている有様。

今日もまた、十二家のうちの下山甲斐と百地三太夫が小競り合いを起こしてます。

ドルフ
乱世でこそ人の本能と欲望がむき出しなるもの。
骨肉の戦いの中、果たしてどんなドラマが待っているのやら。

『忍びの国』のあらすじ②:勃発、天正伊賀の乱

下山甲斐の嫡男、平兵衛は伊賀には珍しく常識人です。いや、伊賀の中では非常識人と言うべきでしょうか。

百地家との小競り合いでも享楽的に殺人を楽しもうとする弟次郎兵衛を「敵とはいえ、親も子もある人なのだ。むやみに殺していいというものではない」とたしなめます。
これに対し、次郎兵衛は伊賀においては常識人、他人を思いやる気持ちなど皆無と言ってよく「おかしなことをいうなぁ」と心底呆れます。

血気に逸る次郎兵衛ですが、伊賀一の技を持つと言われる百地家の下人、無門によってあっさりと討たれてしまいます。

無門と呼ばれるこの忍び。
技の冴えは天下一品といって良いのに、どこか間が抜けていて何よりも無類の怠け者。
西国からさらってきたお国という絶世の美女と夫婦になる事を夢見ていますが、さらう時にお国に約束した「銭の心配など生涯させぬ」という約束を果たせず、夫婦どころか一緒に住む事すら拒否されて、自分の家も取られている体たらく。

ただし、忍びの技だけは間違いがありません。
主である百地三太夫もある種の恐れを抱いており、無門だけは特別扱いです。

次郎兵衛を殺す際も、普通の下人であれば「殺せ」と一言命令するだけですが、無門はそれでは動かないので金を払う始末。
銭を貰えると判った無門はあっさりと次郎兵衛を殺します。

これに激高したのが兄の平兵衛です。
父である下山甲斐に「次郎兵衛が殺されたのですぞ!」と詰め寄るも、父もまた伊賀の常識人。
「それがどうした」とけんもほろろの対応です。

「この者どもは人間ではない」
平兵衛は心底伊賀という国に落胆し、絶望すら覚えてしまいます。

(人でなしどもに思い知らせてやる)
暗い情熱を胸に、平兵衛は隣国伊勢に走ります。

伊勢の猛き武人と伊賀の享楽的な虎狼達。
虚虚実実の駆け引きのなか、お互いの命運を掛けた戦いがいよいよ幕を開けます!

ハル
時代によって常識は交錯するものだからな。勝者が常識をつくり、果ては歴史となるのは世の常かもしれない。
平兵衛の非常識は非常識のまま終わるのか、それとも……?

『忍びの国』はココがおすすめ!

※画像はイメージです

  • 有名人も無名人も騙し騙され
  • 討ち討たれ…

有名人も無名人も

  • 伊勢の国司・北畠具教。
  • その娘婿である織田信雄。
  • 信雄の父である天下人・織田信長。
  • 古今無双といっていい弓の名人・日置(へき)大膳。
  • 五尺そこそこの小兵でありながら四尺あまりの大太刀をふるう怪力無双の長野左京亮。
  • 十二家評定衆に名を連ねる伊賀の地侍・百地三太夫。下山甲斐。音羽半六。

これら史上に名高い有名人が、ともすれば読んでる人に「もしかして隣にいるのではないか?」と感じさせてくれるほどに生き生きと描写されます。

文献の中の世界でしか知り得ないこれらの人々を「あぁ、こういう人だったのか」と感じさせてくれる描きよう、見事としか言いようがありません。

無名の人達もまた、その“生”を懸命に燃やしている様を見事に描ききってくれています。

  • 「その腕絶人の域」とまで評される伊賀一の忍び・無門。
    伊賀に絶望し伊勢に走った下山平兵衛。
  • 土遁の名手・木猿。
  • 無門によって西国からさらわれた絶世の美女・お国。

これら無名の人々がその“生”を燃やす様を、時にシリアルに、時にコミカルに描いてくれるので、本来であれば感情移入が難しいキャラクターである「虎狼」達に対しても容易に感情移入でき、一気に読み進めてしまう事間違いなしです。

騙し騙され、討ち討たれ…

忍術・忍法というとついつい「分身の術」や「火遁の術」等を思い浮かべてしまいます。
これらはいわゆる「体術」というべきものであり、実際に手足として働く下人が良く使う技です。
『忍びの国』でも無門を始めとする下人達が常人離れした体術の数々を披露してくれ、楽しませてくれます。

しかし、伊賀忍術の真骨頂は体術ではないのです。

無門むもん一関いっかん

彼らはそう呼びます。
一見、門でも戸でもないところに実は出入り口があるのだ、という意味です。

この「無門の一関」を相手に悟られる事なくこじ開けて、相手を意のままに操る事、これこそが術の真骨頂。この術を時には味方に、時には敵に掛けていく様子は実に巧妙で、途中まで読み進めて始めて「なるほど、そうだったのか!」と気づきます。

出だしから繰り広げられるスピーディーな展開、読み出した瞬間に実は貴方の「無門の一関」も作者の和田竜氏にこじ開けられているのかも!?

おわりに:『忍びの国』の感想

虎狼と呼ばれる人でなし達が、敵味方問わず騙しまくって殺戮の限りを尽くす。
この文字面だけを見たら全く想像出来ない事だと思いますが、何故か読了後は爽やかな気持ちになります。

両手を青空に突き出すような爽やかさとは違い、夜の片隅で一人ニヤついてしまうような、何とも言えない「爽快感のようなもの」が胸の奥にすーーっと広がっていきます。

一体、この「爽快感のようなもの」の正体は何なのだろう?
ずっと考えてきました。

「爽快感のようなもの」の存在をしっかりと認識した上でもう一度読み返し、その正体が判った気がします。

人は何か一つに誠実になればなるほど、それ以外のものには不誠実になってしまうものです。
虎狼達は何よりも「己の欲望」に誠実なのです。敢えて言えば、それは「清清しいほどのクズ」なのです。

この「清清しいほどのクズ」達が己の命の限りを燃やし尽くして懸命に生きている姿、その姿に感動すら覚えてしまう、これこそが「爽快感のようなもの」の正体なのかも知れません。

ハル
「己の欲望」に誠実な生き方か。
やろうと思っても、なかなかできるもんじゃないよな。
Name
己を貫いて英雄になる者もいれば、エゴと見なされて愚者になる者もいる。
その善し悪しはともかく、本人たちはきっと後悔しないのだろう。
ハル
「清清しいほどのクズ」たちの結末をぜひ見届けてくれ。
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