太宰治『斜陽』のあらすじ&感想【一瞬のもがき苦しむような輝き】

今回は、近代日本文学作品である『斜陽』をご紹介したいと思います。

『斜陽』は、『人間失格』『走れメロス』等と並んで太宰治の代表作として有名で、
当時の文芸雑誌にて、次々に重版を重ねた大人気ベストセラーです。

第2次世界大戦が終わり、何もかもが大きく変わろうと動く時代。

華族や貴族といった上流階級が没落していく様を強く美しく描いたお話です。

「斜陽」とは、「日没前の太陽」の意味。

そこへこの作品をきっかけに、国語辞典には新たに「没落」という意味が付け加えられました。

高く美しく昇った太陽に陰りが忍び寄る時代に、最後まで強くあろうとした上流階級の人々の闘いとはどのようなものだったのか。

文学作品は、堅苦しくて難しそう!と避けてしまいがちな方にも、魅力が伝わるように紹介していきたいと思います!

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太宰治『斜陽』のあらすじ

斜陽 他1篇 (岩波文庫)

まずは、あらすじに移る前に簡単に時代背景を説明したいと思います。

第2次世界大戦後。

1947年、78年間存続した華族制度はGHQにより廃止されました。

終戦後の日本には、財産や社会的地位を奪われた華族・貴族が多くいたことでしょう。

そんな彼らと同じく、『斜陽』では上流階級とよばれた華族である主人公たちが時代とともに没落していくさまが描かれています。

全てを奪われていく彼らが、最後に縋り付くものは一体何だったのでしょうか。
では、さっそくあらすじを紹介していきます。

太宰治『斜陽』のあらすじ①:〈東京から伊豆の山荘へ〉

戦争が終わり、時代が移り変わっていく中で、当主である父も失ったいわゆる「没落貴族」である主人公・かず子と母は、東京から伊豆へ引っ越すことを余儀なくされます。

伊豆の山荘では、かず子と母の二人暮らし。

「最後の貴族」と自分の子供たちから称される母は、ひとつひとつの所作が可憐で気高く美しい女性で、そんな母にかず子は崇拝と敬愛の念を抱いていました。

伊豆では、毎日何もせずのんびり楽しい時間が流れていたのですが、
亡くなった父親の化身として母が忌み恐れていた蛇の卵をかず子が燃やしてしまったり、風呂の薪の不注意が原因で火事を起こしてしまったり、と何かと不吉なことが続きます。

村の人にも迷惑をかけ、「子どもが二人ままごと暮らしをしているようだ」と言われてしまう始末。

その後、もっとしっかり生きなければと決心したかず子は家で畑仕事を始めます。

しかし、力仕事は戦時中の徴用で経験していたものの、自分がどんどん「野生の田舎娘」になっていく感覚に陥り、美しい母の元へ行くこともはばかられるようになります。

美しく裕福な暮らしから一転して、地面を裸足で踏みつける生活。
心がうまくついていかなくても無理はありませんね…

ハル
激変した生活への適応。
母親に憧れるかず子さんにとって、それが正しいのかも分からない状況はつらいな……。

太宰治『斜陽』のあらすじ②:〈地獄のはじまり〉

ある昼下がり、母はかず子に話を2つ持ち掛けました。

1つ目は、戦争に行っていたかず子の弟である直治がアヘン中毒になったため伊豆の山荘にて一緒に暮らし、静養させること。

かず子にとって、直治が帰ってくるということは地獄の始まりを意味していました。

そして、もう1つは…

この家のお金が底をついてしまいそうなので、かず子をお嫁に行かせるか、奉公へ行かせるしかないという内容でした。

奉公とは、いわば住み込みのお手伝いさんのような存在です。

これらは2つとも、この伊豆の山荘を手配してくれるなど何かとお世話をしてくれた叔父からの伝言でした。

かず子は、「直治が来るから私を追い出すのだ」と大好きな母に向かって怒り泣き叫びます。

しかし、今までにないほど泣き狂うかず子を見た母がその日の夕方に
「初めて叔父に背いた」「着物やお洋服を売って暮らそう」と私に告げてくれます。

そして、ついに弟の直治が伊豆へやってきて、かず子にとっての地獄が始まりました。

身内である弟を完全に嫌い、「地獄」と言い放つ姉・かず子。
しかし、アヘン中毒に陥るほどに生きることに苦しみを覚えた直治に焦点を向けて読むと、新しい地獄が見えてきて、個人的にとても興味深いです。

かず子さまが敬愛したとおり、お母さまは気高い人だったのですね……!
この先どんな生活が待っているのか、気になります。

太宰治『斜陽』のあらすじ③:〈上原との出会いー戦闘開始―〉

直治は伊豆に来てからも、酒に明け暮れ借金は増え、と散々な生活を繰り返します。

母は、もともと悪かった体調が深刻に悪化し、寝込んでしまいます。

そんな時、6年前に直治の借金を返すためにかず子が家までお金を届けていた、直治が尊敬する小説家である上原という男にかず子は手紙を書きました。

実は、かず子と上原は以前にある秘めた出来事をもっていたのです。

その後、かず子を取り巻く環境も大きく変わっていくにつれて、かず子は狂ったようにどんどん上原へ心酔していきます。

時代の変化は残酷で、誰もが戦わざるを得なかった時代。
彼女たちが生き抜いた「戦争」の結末は、ぜひご自分で見届けてみてください。

ハル
貴族だった頃とは一転した生活に加え、どんどん雲行きが怪しくなっているね。
”斜陽の時代”を生きるかず子さんはどんな結末を迎えるのかな……。
わたしは、強く生きる人にはちゃんと救いがあると信じたいです。

太宰治『斜陽』はココがおすすめ!

  1. 魅力的な言葉の数々
  2. 秀逸でユニークな言葉遊び
  3. 太宰治自身の投影?

①『斜陽』の〈魅力的な言葉の数々〉

『斜陽』の魅力のひとつに、お洒落で洗練された粋な言い回しが挙げられます。

その中でも、私が大好きな言葉たちの一部を紹介していこうと思います。

「人間は恋と革命のために生れ来たのだ。」

太宰治『斜陽』より

これは、『斜陽』の中でも特に有名なフレーズですが、何度読んでも心が震えます。

誰もが生きづらさを感じていたであろう時代に、このようなことを言える女性は非常に美しく強いと感じ、現代でも通じる色褪せない言葉だなと思います。

ちなみに、『斜陽』は太宰治の愛人であった太田静子という女性の日記をもとに書かれています。

当時を生きた女性から実際に発された言葉ということもあり、より生々しくストレートに心に響いてくるのでしょう。

非常にセンスが感じられ、声に出して読みたい言葉ですね。

もう1つ、紹介したいと思います。

「恋、と書いたら、あと、書けなくなった。」

太宰治『斜陽』より

これは、かず子から上原に向けた言葉なのですが、今も昔も変わらない“恋する乙女”の感情を非常に秀逸に切なく端的に表しているなと思い、短い言葉ですが感情が詰まっており、胸が苦しくなります。

他にも読んでいて頭がガツンと殴られるかのような痺れる素敵な言葉が溢れていますので、ぜひ注目して読んでみてください。

②『斜陽』の〈秀逸でユニークな言葉遊び〉

かず子は、上原へ向けた手紙の最後で上原の事を「M.C」と表記します。

この「M.C」にはかず子のその時の上原を想う意味が隠されており、
例えば、初期は、「M.C(マイチェーホフ)」という意味合いで使われていました。

『斜陽』は、ロシアの劇作家アントン・チェーホフ『桜の園』の日本版として太宰治は執筆しました。

憧れや崇拝、美しさの象徴の意味を込めて呼ばれた「マイチェーホフ」

物語が進み、どろどろと恋愛模様も進むにつれてかず子にとっての「M.C」の意味はどのように変化していくのでしょうか。

最後に呼んだ「M.C」の意味を目にしたとき、人生を賭けた恋の終わりの究極を見たような気がしました。

この「M.C」については様々な解釈があると思うので、ぜひ最後まで読んでいろいろと考えを巡らせてみてください。

③『斜陽』は〈太宰治自身の投影〉?

太宰が生まれた津軽の家は大地主でしたが、戦後、人や物の出入りがなくなった実家を見て、太宰は『斜陽』の執筆を始めました。

かず子が恋に溺れた上原という小説家の男。

酒浸りで喀血(血を吐く症状)を繰り返す姿は、晩年の太宰治と重なります。

また、麻薬とアルコールと時代の波に飲み込まれた元貴族であるかず子の弟・直治も全盛期前後の太宰治ととらえることができるでしょう。

作中の上原や直治の言葉には、実際の太宰自身の叫びが含まれているように感じます。

様々な説がありますが、私は『斜陽』を読んで太宰治という人物を少し理解できたような感覚を味わいました。

こういったことを頭の片隅に少しでも置いて読んでみると、より深く物語を理解できるかもしれませんね。

おわりに:太宰治『斜陽』の感想

今回は、『斜陽』を紹介しましたが、少しでも興味を持っていただけましたでしょうか。

時代に置いて行かれぬよう、時代に負けぬよう、奮闘し戦うかず子たちの姿は儚くも美しいものです。

美しい太陽が真っ暗な地平線に落ちていく一瞬のもがき苦しむような輝き。

この一瞬の美しさがすべて詰まったような作品だと私は感じます。

『斜陽』は文体も物語もとても読みやすく、初めて太宰治や文学作品に触れるという方でも理解しやすく入り込みやすい作品だと思います。

彼らの「戦争」と「革命」と「滅び」を肌で感じてみてください。

ハル
”斜陽”というタイトルに込められたものを踏まえて読むと感慨も一入ひとしおなはずだ!
難しそうなお話だと思っていたけど、わたしも読んでみたくなりました……!
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