小説『坂の上の雲』のあらすじ&感想【本日天気晴朗ナレドモ波高シ】

今回ご紹介するのは司馬遼太郎氏による不朽の名作『坂の上の雲』です。

「まことに小さな国が、開化期を迎えようとしている」

極東の小さな島国で産声をあげた日本という国家が、列強に学びながら日清・日露という二つの大戦を乗り越えて成長していく明治という時代。

産経新聞夕刊に1968年4月から1972年8月まで足掛け4年半1296回に渡って連載された壮大な長編小説の冒頭の一文が、この一文です。

長編小説の冒頭で「これから始まる物語」を表すのに、たった一文でこれほど端的にかつ見事に表現した例は他に類を見ません。

近代日本の礎となった明治という時代。

その明治という時代の空気や背景が、司馬遼太郎という稀代の文章家の手によって描かれたこの作品。
壮大な長編でありながら、まるで一遍の詩のような見事過ぎる小説、それが『坂の上の雲』なのです。

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小説『坂の上の雲』のあらすじ

坂の上の雲(一) (文春文庫)

『坂の上の雲』のあらすじ①:開化の時代

帝国主義の嵐が吹き荒れるなか、極東の小国・日本は産声をあげました。
明治維新を成功させ近代国家として生まれ変わった国、日本。

明治という時代はまさに日本という国にとっての青春時代そのものでした。

日本という国の青春時代に己の青春時代を重ね、一人一人がその背中に「国家の興亡」を担わんという気概と志をもって生きる若者達。
伊予松山で生まれ育った三人の若者もまた、世の若者達と同様の気概と志をもってこの高揚の時代に乗り出すのでした。

のちに日本初の騎兵部隊を組織して「騎兵の父」と呼ばれ、その風貌や性格から「最後の古武士」と呼ばれた秋山好古(よしふる)。

好古の弟で、のちに海軍に入り「丁字戦法」や「七段構え」等を立案、日本海海戦を大勝利に導いた「天才」秋山真之(さねゆき)。

真之の親友で、のちに文芸の道に入り、俳句短歌といった伝統文芸の復活に生涯を捧げた「俳句中興の祖」正岡子規。

この三人の若者を中心に、壮大な物語は静かに幕を開けていきます。

『坂の上の雲』のあらすじ②:「眠れる獅子」を倒して

日本のすぐ西側には極東の大国・清帝国が位置しています。
アヘン戦争以来欧米列強に食い物にされ続けているとは言え、日本と比べればまだまだ超大国・眠れる獅子である事は間違いありません。
その清帝国が朝鮮半島の支配を目論んで東進してきます。

朝鮮半島が清の支配下に入ってしまえば、日本との間を遮るものは対馬海峡のみ。
危機感を抱いた日本は派兵を決断、ここに日清戦争の火蓋が切られます。

維新以来兵を鍛えに鍛えてきた日本軍は連戦連勝、豊島沖海戦・黄海海戦で清軍を圧倒します。
陸軍も旅順要塞を一日で陥落させるなど快勝に継ぐ快勝、日本国内は狂喜乱舞します。快勝を続ける日本軍のなかには初めて戦場に臨む秋山兄弟の姿もありました。

一方、従軍記者として戦地に赴いた正岡子規ですが、無理がたたって持病の結核が悪化。
自らの死期が近い事を悟った子規は自分の余命の全てを俳句短歌の復興に捧げることを決意します。

『坂の上の雲』のあらすじ③:北方の巨熊、ロシア帝国

日清戦争に勝利した日本の前に更なる敵・ロシア帝国が立ちはだかろうとしています。

「いずれぶつかる」

そう考え、日本は対露戦争の準備に入ります。

秋山好古は強大なコサック騎兵への対策準備を、真之もまた全く新しい海軍戦術の起草に熱中するなか、子規は日本文学史に大きな功績を残してこの世を去ります。

やがてロシアはその欲望を朝鮮半島まで広げる動きを見せます。
単独でロシアに対抗するのは無理と見た日本は日英同盟締結という離れ業を画策、ついにこれを実現させます。時間が立てば立つほど彼我の戦力差は広がる一方とみた日本はロシアに宣戦を布告、ここに日露戦争が勃発します。

開戦と同時に日本軍は電撃作戦に着手、制海権の確保に成功します。

ロシア極東海軍戦力の中核を担う旅順艦隊を撃破、旅順港に封じ込める事に成功するともに、旅順要塞の攻略に着手します。
ところが日清戦争時に1日で陥落させた旅順要塞はロシアの手によって全く新しい近代要塞に生まれ変わっており、容易に落ちません。

日本軍は旅順港の封鎖を続けて旅順艦隊を封じ込めるとともに、軍を二つに分けて要塞攻略と満州におけるロシア軍拠点である遼陽・奉天の攻略を目指します。

『坂の上の雲』のあらすじ④:屍山血河、そして運命の海へ

旅順艦隊を封じ込められたロシアは虎の子のバルチック艦隊を極東に派遣することを決定します。
バルチック艦隊が日本海まで出てきてしまえば、旅順艦隊と挟み撃ちになり、日本海軍は一気に不利になる。
慌てた海軍は「なんとしてでも旅順を落としてくれ」と陸軍に頼み込みました。

陸軍としても一日も早く旅順を落として旅順攻囲の戦力を満州に回さないと、来るロシア主力との大会戦時に圧倒的に戦力が足りません。
凄惨を極めた旅順攻略戦は更にその凄惨さを増し、旅順の山々は日本兵の血を止めどなく吸っていきます。

一方、ロシア皇帝の勅命を受けたバルチック艦隊は途中増援を受け、その数四十に迫る大艦隊となって東へ東へと航海を進めます。

陸海軍、双方の雌雄を決する戦いはもはや眼前に迫りつつありました。

旅順・満州と屍山血河の戦いを繰り広げる日本陸軍と秋山好古。自ら育て上げた騎兵旅団と共にただひたすら「奉天へ」と進む好古の姿はまさに「最後の古武士」に相応しいものでした。

「本日天気晴朗ナレドモ波高シ」

一様の詩のような出撃電文を発し、秋山真之と共に出撃する日本連合艦隊。その日本連合艦隊が目指す運命の海、日本海で待ち受ける運命とは、如何なるものなのでしょうか。

小説『坂の上の雲』はここがおすすめ!

※画像はイメージです

『坂の上の雲』には秋山好古・真之兄弟、正岡子規の他にも魅力的な人物が綺羅星の如く登場してきます。そのうちの一部をご紹介しましょう。これらの登場人物を生き生きと描く巨匠司馬遼太郎の文章の冴えに心躍る事間違いなしです!

「軍神・立見尚文」

元桑名藩雷神隊の隊長。

戊辰戦争時は官軍を苦しめに苦しめた過去を持ちます。

黒溝台会戦では戦術の禁忌である「戦力の逐次投入」を行った参謀本部のせいで師団兵力の半数を失いますが、持ちこたえます。

立見師団苦戦の急報に接した参謀本部は慌てて更なる兵力の増加を約束しますが、これに対し「自師団を侮辱された」と感じた立見は激高、「これほどの恥辱があるか!」と地団駄を踏んだというエピソードが残ります。

「不世出の軍略家・児玉源太郎」

長州出身の軍人で満州軍参謀本部総参謀長。神懸り的な軍事才能を持ち、日本陸軍の兵学教官を務めたドイツ帝国陸軍の至宝・メッケル少将に一番可愛がられたと言われています。

日露開戦の報に接したメッケルは言下に「日本が勝つ。日本には児玉が居るからだ」と即答したと言います。

「仁将・乃木希典」

長州出身の軍人。幼少期は虚弱体質で臆病な泣き虫、長じてからも武士を諦めて学者を目指して出奔するほどの穏やかな性格でありながら、戊辰戦争・西南戦争から日清日露までを戦い抜いた生粋の武人という奇妙な人です。

日露戦争時は第三軍を率いて旅順攻略戦に参加、苦しみ抜いた上に旅順を落とします。

日露戦争後、明治天皇の崩御に際して殉死。軍事的才能には恵まれなかったものの、武士道を体現するようなその生き様から世界中の賞賛を浴びた日本を代表する軍人の一人です。

おわりに:『坂の上の雲』の感想

『坂の上の雲』が意味するものとは?

昔、ある人に「坂の上の雲だけは老後に読もうと思って取っている」という話をした時、即座に「今(当時私は二十代でした)読んだ方がいい。あの小説は日本が“昇ろう、昇り詰めよう”と皆が足掻いている時代の話だ。
勢いの衰えた老後に読むのと、勢いのある今読むのとでは印象が全く違ってしまう。

根拠の無い自信に満ち溢れ、“何でも出来る”と思える二十代の今こそ読むべき作品だ」と言われた事があります。

『坂の上の雲』とは「上って行く坂の上の青い天に、もし一朶の白い雲が輝いているとすれば、 それのみを見つめて、坂を上っていくであろう」という、明治人という途方も無い楽天家達が、自分達の目的を疑う事なくその目的に邁進する姿から来ています。

国家の目的と国民の目標が一つとなり、国民一人一人が「その肩に国家を背負っている」と思うほどに高揚した明治という時代の空気。

近代日本の礎となった時代を余すところなく描いた不朽の名作、必見です!

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