小説『のぼうの城』のあらすじ&感想 【天下相手の大戦!】

「忍の浮き城」の異名を持つ、関東七名城の一つ、武州・忍城。
今の埼玉県行田市に存在した城です。

この城を舞台にした「忍城の戦い」をテーマにした小説が『のぼうの城』です。
以前にご紹介した『忍びの国』の作者、和田竜氏の小説デビュー作です。

天下統一を目前にした豊臣秀吉軍2万。これに対抗する忍城軍はわずか500人。

しかも率いる大将は領地の農民から「でくのぼう」を略して「のぼう様」とあだ名される人物。もう、蹂躙される未来しか浮かびません。

天下の大軍を前に、果たして忍の浮き城の運命は!?
この記事では『のぼうの城』の魅力を、ネタバレなしのあらすじと感想を共にしてご紹介していきます。

痛快歴史小説、ここにスタートです!

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この記事の本文は読書家ライター・楽観さんに書いて頂きました!

小説『のぼうの城』のあらすじ

のぼうの城 上

小説『のぼうの城』のあらすじ①:天下人の軍

本能寺の変で織田信長が非業の死を遂げてからわずか8年。豊臣秀吉は天下をほぼ手中に収めました。
天下統一を完全なものとする為、秀吉にはどうしても倒さなければならない敵が居ました。関東の王、北条氏です。

北条氏は関東一円に覇を唱え、本城小田原城を中心に、構える支城は大小100以上。堂々たる大家です。

「北条を討つ」

秀吉の号令一下、豊臣軍は関東へと出陣します。
その数50万。対する北条軍は本城支城の侍を全て合わせても3万4千あまり。
負けるはずがありません。

出陣の最中、秀吉はお気に入りの官僚・石田三成を呼びます。
三成はこれまで「奉行(官僚)」としての働きが殆どで、同じ豊臣家中の大名達にも「武功が無い」事を嘲られていました。

これを哀れに思った秀吉は、同じく奉行であった大谷吉継・長束正家をつけ、2万の大軍の総大将として「北条の支城を落とせ」と命令します。

「北条の支城など、所詮田舎城に過ぎぬ」
「石田冶部少輔に武勇有りと示せ」

秀吉の親心に歓喜する三成。
秀吉は更に続けます。

「武州忍城をすり潰せ」

そう言って、忍城の絵地図を見せられ、三成は思わず息を飲みます。

(湖に城が浮いている)

こんな異様な城は見た事がありません。

決戦の舞台、「忍の浮き城」が三成の脳裏に始めて刻まれた瞬間でした。

小説『のぼうの城』のあらすじ②:絶望の評定

忍城を治める成田家。鎌倉以来の名門で、当主は成田氏長(うじなが)と言いました。
この頃の成田家は北条家に臣従しており、総兵力は1000。主家である北条家が「秀吉と戦う」と決めた以上、これに従わなければなりません。

北条家の催促により、成田家は「古法に則り、兵力の半数500騎を当主氏長自ら率いて本城小田原城に入城」と決めました。

後に残るのは当主氏長の従兄弟・成田長親(ながちか)。当主氏長が唯一頭の上がらない叔父・成田泰季(やすすえ)の嫡男で、かつて剛強を誇った泰季からすれば「不肖の息子」でした。

「北条家にも関白(=秀吉)にもつかず、今と同じように皆暮らすということは出来んかな」

成田家が出陣を決めた評定の際にも、愚にもつかない世迷言を言い出す始末。
父・泰季でなくても怒鳴りつけたくなる気持ちも判ります。

ただでさえ50万もの天下の大軍を相手に、4万にも満たない人数で戦うという絶望の戦さである上に、城に残る大将がこのような愚昧の将では勝てるものも勝てないというもの。

「成田家の命運は、もはや尽きた」

北条家に加担すべしと唱えていた主戦派の武将達も一様に落胆してしまいます。

小説『のぼうの城』のあらすじ③:坂東武者の心意気

当主・成田氏長は「小田原に入ったと同時に関白に内通する。
関白の軍勢が押し寄せれば速やかに開城せよ」と長親と三人の家老にだけ言い残して忍城を去ります。

「秀吉に翼でも無い限り、箱根の山は越せまい」

そう豪語していた北条家ですが、秀吉の大軍は北条家が予想もしなかった速さで伊豆の山々を突破します。
北条家の西側の最前線基地であり、堅城を謳われた伊豆山中城はわずか半日で落城、その他の各地の支城もぞくぞくと落城していきます。

やがて、怒涛のような秀吉の大軍は忍城にも押し寄せます。
石田三成を総大将に、その数2万。

天下の軍勢を相手にして勝てる道理もありません。
「開城しよう」忍城方の思惑は一致します。そこに、石田三成からの使者が到着します。

使者の名前は長束正家。三成と同じ奉行衆を務め、「算術については古今無双」の評判を取る切れ者です。
ですが、切れ者が故に傲岸不遜で、秀吉の権力を傘にきて傍若無人極まる態度。忍城の侍達など「歯牙にもかけぬ」といった態度です。

いわゆる「虎の威を借る狐」といったところですが、言う事もまたいちいち癪に障ります。
「和戦、いずれでも構わぬが、逆らうと言えば我が2万の兵で揉みつぶす」と、戦さ相手への敬意もへったくれもあったもんじゃありません。

元々、当主氏長以下「開城」と決めていた成田勢。この侮蔑にもひたすら耐え、降伏するより道はありません。
そこを知ってか、正家は「早く返答しろ」と長親に迫ります。

居並ぶ成田家の武将達は皆、屈辱に耐えかねてました。怒りで顔を紅潮させ、小刻みに体を震わせています。
その中で、本来当主が座るべき上段の間に腰を据えた長親だけが1人、何を考えているのかさっぱり判らない顔で座っています。

「早よう言え」と正家。

次の瞬間、長親は誰もが予想しなかった驚愕の一言を発します。

「戦いまする」

2万の軍勢を相手に、わずか500人で戦うと言い出す長親。
近江生まれの正家には想像もつかない事だったでしょうが、これこそかつて「日本国をもって関八州に対すべし」と謳われた坂東武者の末裔達の心意気。

「坂東武者の槍の味、存分に味わわれよ」

長親は正家を見据えるとそう言い切りました。

驚天動地の忍の浮き城を巡る戦い、いよいよ開戦です。

『のぼうの城』はここがおすすめ!

  • まるで「漫画」のような軽妙で読みやすいストーリー!
  • キャラが立ちまくってる登場人物達!全員魅力的!

まるで「漫画」のような軽妙で読みやすいストーリー!

「これが小説デビュー作!?」と目を見張るような和田竜さんの見事なタッチに痺れます。

心の声、発した声。これらを文章の中に絶妙な上手さで散りばめ、一場面一場面が脳裏の中であっと言う間に描けるようなその描写。文章を読んだだけでその脳裏に「自分だけの映画」を作れるのは小説にだけ許された特権です。

「のぼうの城」は後に野村萬斎さん主演で映画化され、映画も大ヒットしますが、まずはこの小説を読んで頂き、「自分だけの映画」を頭の中で描いて頂きたいですね。

時代小説に有りがちな重苦しい描写も全くなく、時代小説が「苦手」という人でも必ず「読みやすくて面白い!」と唸ること間違いなしです。

キャラが立ちまくってる登場人物達!全員魅力的!

天下人・豊臣秀吉、後に関が原の戦いで西軍の大将となる石田三成。
これら教科書にも出てくる有名な武将は元より、歴史マニアにしか知られていないようなマイナーな武将達も皆キャラが立ちまくってます。

秀吉軍では三成の盟友・大谷吉継。秀吉をして「100万の軍勢を与えて自由に指揮させてみたい」と言わしめ、「将兵を扱うこと手足の如し」と言われた名将でした。

のちにライ病(諸説あり)となって失明してしまいますが、「のぼうの城」では青年時代の颯爽とした吉継の姿を見る事が出来ます。

秀吉軍を迎え撃つ成田勢もまた、「坂東武者の末裔」の名に恥じぬ強者揃い。

「漆黒の魔人」の異名を持つ成田家一の家老、正木丹波。その丹波のライバル、大力の持ち主にして筋骨隆々の巨漢、柴崎和泉守。若干22歳にして家老職を務める自称「戦の天才、毘沙門天の生まれ変わり」酒巻靱負(ゆきえ)。

「のぼう」こと成田長親の元、「坂東武者の槍の味」を奮いまくる彼らの戦いぶりに心躍らせて下さい!

おわりに:小説『のぼうの城』の感想

天下人に喧嘩を売る。

何とも無謀で、痛快で、命知らずな男達の物語。
いやもう、読んでて「痛快!」の一言です。

物語の中盤、長親は叫びます。「武ある者が武なき者を足蹴にし、才ある者が才なき者の鼻面をいいように引き回す。
これが人の世か」と。

弱者は黙って強者に従えと言うのか。抗う道すら残されていないと言うのか。
長親の叫びは、現代に生きる我々にも十分に共感できる叫びです。
「誇り」を大切にして何が悪いと言うのか。

「のぼうの城」は読者にそう問いかけ、生きる活力を与えてくれる小説です。

一命を賭けて己の誇りを守った男達が奮う「坂東武者の槍の味」、貴方も存分に味わってみては如何でしょうか。

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