夏目漱石『こころ』のあらすじ&感想 【あなたは共感できますか?】

言わずもがな、誰もが知っている有名な小説ですね。
夏目漱石の『こころ』を初めて読んだのは私が大学生の時でした。講義の議題でこの作品が指定され、各々感想を書いてくるように、と。
私はこの作品に出てくる「先生」と呼ばれる人物をひたすら酷評したレポートを提出しました(笑)
読後、イライラするやら腹が立つやらで、その思いをただただ書きました。

皆さんはどのような感想を持たれるでしょうか?
年齢、性別、置かれた環境、そして時代。本当にそれぞれ思うところが違うのではないでしょうか?

読み終えた時、その時の自分はどう感じるのか。それを知りたくなる、そんなお話の一つだと思います。
そんな『こころ』のあらすじと感想をネタバレなしでご紹介します!

ブログ運営者より:
この記事の本文は読書家ライター・めい さんに書いて頂きました!

夏目漱石『こころ』のあらすじ

こころ (集英社文庫)

夏目漱石『こころ』のあらすじ①:「先生」と「私」

『こころ』は上・中・下の三部から成ります。

まず”上”。
ここではこの物語の主要人物、「私」と「先生」の出会いから交流が深くなっていく話が中心となります。

『こころ』は主となる登場人物は多くありません。
前述の「私」と「先生」を含めて5人です。ほぼこの5人で物語は進んでいきます。

時代は明治。
当時で言うごく普通の男子大学生であった「私」は、遊びに来ていた鎌倉で一人の年上の男性と出会います。
どこか憂いを帯びた、今で言うと”アンニュイ”と言うのでしょうか、そんな雰囲気をまとった彼に「私」は強く惹かれます。
知的で大人で、もちろん人生の先輩で…。「私」はその人を「先生」と呼び、慕うようになります。

無邪気で素朴で、真っ直ぐに先生と呼び慕う「私」を「先生」も次第に好ましく思ったのか…受け入れ、東京に帰ってからも交流は続き、「私」は「先生」の家に遊びに行くほどの関係になります。
東京での「先生」の日常が次第に見えてきた「私」は、「先生」が毎月誰かのお墓参りに行っていることを知ります。

”上”では「私」と「先生」、そしてまた主要人物の一人、「奥さん」との会話や交流が語られます。
「奥さん」とは「先生」の妻です。

「私」は若者特有と言うか生来の性格もあるのか、素朴な疑問質問を「先生」に投げかけます。反対に「先生」もそんな「私」と過ごす日常の中で、ふとした問いかけをするのです。

しかし、「先生」は聞かれたことも、自ら投げかけた問いにも悉く核心をつく返答はしません。
時に過去の体験や感情、今現在持ちうる信条を吐露するのですが、いまいち具体的ではなく、「私」も「先生」の心の内に迫ろうとしつつも、本当の「先生」の過去や物憂げな表情の訳を知ることは出来ないまま時が流れていきます。

人間を愛し得る人、愛せずにいられない人、それでいて自分の懐に入ろうとするものを、手をひろげて抱き締める事のできない人。___これが先生であった。

夏目漱石『こころ』(集英社文庫)より

「私」が「先生」のことを表す一文があるのですが、「先生」のことをただ尊敬し慕っていたかと思いきや、かなり的確かつ冷静に「先生」のことをよく見ていたことが分かります。
「先生」はまさにこういう人物なのです。

夏目漱石『こころ』のあらすじ②:両親と「私」

”中”では、一転し「私」と「私の両親」の話となります。
「私」は、父親の病気があまり良くないという知らせを受け、田舎に帰省します。この頃「私」は大学を卒業しています。

”大学卒業”という一つの成果に対する親子間での価値観の違い、それによるどうしても上手く噛み合わない親子の会話が描かれています。

息子の卒業を立派なことと考え、喜び讃える父親と、あくまでも卒業とは通過点に過ぎず、ごく当たり前のことと考える息子の「私」。
互いを思いやりつつも親子間での立場の違いや、田舎と都会の感覚や風習の違い等、ジレンマを抱えながら私の帰省の時間は過ぎていきます。

そんな中、時の天皇陛下(明治天皇)崩御の報知が日本中に伝えられました。
自身の病気も重なり、ますます元気をなくしていった父親は息子である「私」を案じ、「先生」に就職先の相談をしてはどうかと提案。
「先生」に対しそういった思惑は難しいことを知りつつも、両親の願いもあり「私」は渋々「先生」に手紙を書きます。

その後、「私」がようやく再び東京へ立とうという時、父親の病状が悪化します。
家族や親戚が多く出入りし集合させられる中、父親がいよいよ危篤の状態に…。
そうして「私」の東京出立の日が段々先延ばしになってく中、「先生」からおおよそ普通とは言えない量の手紙が届きました。

この手紙があなたの手に落ちる頃には、私はもうこの世にはいないでしょう。

夏目漱石『こころ』(集英社文庫)より

この一文を添えて。

夏目漱石『こころ』のあらすじ③:「先生」と遺書

”下”は全て「先生」の遺書の内容となります。全文遺書です。
”上”・”中”は「私」の語りで描かれていますが、下では主語が「先生」です。「先生」からの視点で話は語られています。
中で「私」が帰省先の実家に届いた手紙を、東京行きの汽車内で読んでいます。

遺書となっている通り、「先生」は自ら命を絶ったのでしょう。
なぜそれに至ったのか、なぜ”人間を愛し得る人、愛せずにいられない人、それでいて自分の懐に入ろうとするものを、手をひろげて抱き締める事のできない人”となったのか。

”上”で描かれていた、先生に対する”なぜ”の理由が全て先生の口から語られています。

夏目漱石『こころ』はここが面白い!

夏目漱石『こころ』はここが面白い①:「先生」の心

『こころ』は皆さんご存知のように、ミステリーではありません。
ネタバレとかではなく、結果として先生は自ら死を選択します。

それは紛れもない事実なのですが、この作品では、なぜ先生がそこに至ったか、なぜ大量の遺書を残し命を絶ったのか、そうなるまでの「こころ」の描写が最大のテーマになっています。
本作品の約半分のページ数が先生の遺書で構成されていることからも、それが分かると思います。

今回、あえて”下”のあらずじをほとんど書きませんでした(書けなかったと言っても良いのですが…)。
単純に長いということもあるのですが、ここは何も知らず、作中の「私」と同様、初めて「先生」の心に触れられた感覚を味わって欲しいと思います。

夏目漱石『こころ』はここが面白い②:価値観と時代背景

私たちは現在令和を生きています。
大正生まれの方から、平成生まれの方まで様々な時代を知った人々が同時代を生きていますが、価値観は本当に時代によって変わるのだと思います。

かつての常識は非常識となり、また逆も然り、互いに理解しがたいものとなるのだと。

『こころ』では、まさにそういったことがとても分かりやすく実感出来るのではないでしょうか。
もちろん、大筋である「先生」の死もあるのですが、作中の「私」と「両親」の会話、内容もですが口調も含めて。
「先生」と「奥さん」の関係性も、です。

あらゆる場面で明治という時代を感じることが出来ると思います。
歴史の史実だけでない、当時を生きる人々の感覚を、夏目漱石の美しい文章で知ることが出来るのも、この作品の魅力の一つだと思います。

おわりに:夏目漱石『こころ』の感想

亡くなった人のことを責めることは出来ません。何も言えません。もう何も分からないからです。

しかし、冒頭でも書きましたが大学生の時の私は、作中の「先生」を酷評したレポートを提出しました。
死を選んだことだけではなく、「奥さん」と「私」に対する言動に対しても、です。

「先生」の心情を慮ることも出来ましたが、それを良しとしてはいけない、と、20年近くも前のことですが、その時の感覚は今になっても思い出せます。

命の価値。それはどの世界においても不変のものと思っていましたし、今も思っています。

命よりも大切な何か、があるとしたら、あるのならば、それはその世界では肯定されるのでしょうか。
私は歴史物も好きで、いわゆる武士や侍の時代のお話も読みます。そこでも、命の価値観は現代とはもちろん違い、死をもって表される人間の生き様も描かれています。

しかし、どこかそれはリアルなものではなく、一つの物語として、時に感動物語として見ていたのかもしれません。

この『こころ』の時代は明治。しかも大正へと転換していく後期にあたります。

更に「先生」は武士でも侍でもない、今で言うごく普通の一般人です。一庶民である私達の間で命の扱いが違うのです。
「先生」には、それに至る理由がありました。自身の生い立ち、体験、そして背負ってしまった一つの罪。

そこには感動も何もありませんでした。ただ、一人の男性が悲しい死を選んだだけでした。

『こころ』は、私がいわゆる「文豪」と呼ばれる先生方の小説を読むようになったきっかけの一冊です。
それまで、頭のどこかで、そういった小説はちょっと分からない、難しいものだと思っていたからです。

しかし、『こころ』を読み終えた時、その考えは変わりました。

人は今も昔もそんなに変わらない、人間の弱さや汚い部分は昔も今も同じなのだな、と、現代人の私にも共感出来ることがたくさんありました。
時代による価値観は違えども、その中で生きる人の心はそう変わらない。そんなことを思えた作品でした。

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