あなたには、もう一度会って想いを伝えたい故人はいますか?
大切な人が天国へ旅立ってしまうとき、悔いを残さずに見送ることができる自信はありますか?
一生に一度、生者と死者の再会を叶えてくれる「ツナグ」と呼ばれる使者。
『ツナグ』は、その使者ツナグを通して紡がれるたった一夜の邂逅が5つ描かれた連作長編小説です。
本来なら二度と会うことができない生者と死者の最後の再会は、はたして互いの心に何をもたらすのでしょうか。
ここでは、5つのお話の中から3つに絞ってあらすじと感想をネタバレなしで紹介していきたいと思います。
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この記事の本文は読書家ライター・wpgm_asさんに書いて頂きました!
小説『ツナグ(辻村深月)』のあらすじ
『ツナグ』のあらすじ①〈アイドルの心得―命をツナグ〉
このお話は、依頼人である平瀬愛美というOLの視点で描かれます。
愛美は、子どもの頃の家庭環境やうまくいかない人間関係などの影響で、うつ病を発症していまい、暗い生活を送っていました。
ある日、無理に誘われた会社の飲み会で、気分が悪くなったにも関わらず、愛美は同僚に路上に放置され、道端でひとり過呼吸を起こしてしまいます。
そこへたまたま通りかかったのが人気アイドルである水城サヲリ。
サヲリは見ず知らずの愛美をすぐに介抱し、明け透けな彼女ならではの言葉を愛美にかけてくれます。
この出来事をきっかけに、愛美はサヲリのファンになり、テレビの中のサヲリが心の支えとなっていたのですが、
サヲリはなんと38歳という若さで急死してしまうのです。
サヲリの死から3か月後。
死者と再会させてくれるというツナグの存在を知った愛美は、サヲリとの再会を疑いながらも依頼します。
生者が使者に会えるのは生涯のうちにただ一人。
死者もまた生者に会えるのは一度だけ。
そして、ツナグが死者と交渉し、死者が了承した場合のみ会うことができる。
死者との再会にともなって、ツナグからこれらの条件を聞かされた愛美は、自分のことを覚えているかも分からないただのファンに会ってくれるのか。
そもそも、死者であるサヲリに本当に会えるのか。どのようにして会うのか。
様々な不安が脳内をよぎるが、勇気を出してダメもとで依頼したところ、ツナグから「水城サヲリは会うそうだ」と返事がきました。
再会場所であるホテルはツナグ側が手配、請求額は0円。
まだまだ疑心暗鬼の愛美でしたが、覚悟を決めて部屋に入ると、そこにはあの日の自分を助けてくれた、そして亡くなったはずの本物の水城サヲリがいました。
派手で明るく大御所にも強気なキャラクターながらも礼儀正しく好感度がとても高かった人気アイドルと、友達も少なく暗い毎日を送る地味な一般人OL。
あの夜、偶然出会った二人は、この日最後の再会を果たします。
愛美を路上で助けたことは全く覚えていないと話すサヲリ。
一度しかない生者との再会のチャンスをどうして見ず知らずの愛美に使ったのか。
死者であるサヲリとの幻のような一夜を過ごした愛美は、別れ際に何を想うのか。
死者と出会う仕組みもわかりやすく説明されており、ラストには切なくも明るい希望が感じられ、1話目にふさわしいとても心が惹きつけられるお話です。
『ツナグ』のあらすじ②〈親友の心得―後悔をツナグ〉
こちらは依頼人・嵐美砂という女子高校生の視点で描かれます。
美砂には、御園奈津という親友がいました。
同じ演劇部に所属しており、毎日一緒に通学し、周りからは姉妹のようだと言われるほど仲良しな2人。
美砂は中学の頃から演劇をやっており、容姿端麗で声もよく通り、1年生の頃から役をもらえる超エリート。
奈津はそんな美砂が誇りで、いつも美砂を心から褒め称えていました。
一方で美砂は何事も自分が一番でなければ気が済まない勝気な性格。
いつの頃からか、些細なことで自分は奈津より劣っているのではないかと感じ始めます。
例えば、ストレッチの最中、自分が話しても周りはストレッチを続けるが、奈津が話すとストレッチが止まったり、自分は知らないブランドの名前を奈津は知っていたり…。
自分とは違い、話し上手で聞き上手、みんなから好かれる奈津に対して美砂の心の中にだんだんとどす黒い感情が生まれ始めていました。
年が明け、主要な役が回ってくる2年生になった2人。
次の舞台の主役は、美砂がずっと前から挑戦したかった役でした。
主役の立候補を問われ、当たり前のように手を挙げた美砂。
しかし、もう一本まっすぐに上がった手があったのです。
それは、あろうことか親友である奈津でした。
「無理なら諦めるから」と謝る奈津に、美砂は嫌悪が隠しきれません。
そしてある日、怒りで全身が痺れそうなほどの奈津のある言葉が美砂の耳に届くのです。
迎えたオーディションの日。
主役に選ばれたのは奈津でした。
憎悪と屈辱が限界まで溜まった美砂は、取り返しのつかないとんでもない事をしてしまい、奈津は命を落とします。
奈津の死から2か月後。
ひどく空っぽになった毎日を過ごす中で葛藤の末にツナグを通し、美砂は奈津と会うことを決めました。
ツナグに会う理由を聞かれ、自分を庇うかのように「親友だから!」と大声で答えた美砂は最後の夜に何を話し、また奈津は美砂に何を想うのでしょうか。
女子高校生という恐らく人生で最も多感な時期。
身近な友達への小さな嫉妬が大きな憎悪に変わってしまう。
心の奥底で、美砂に共感してしまう部分がある人は多いのではないでしょうか。
話のラスト、奈津がツナグに言い残した美砂への伝言があまりにも衝撃で脳内に強く残り、読んだ日から未だに忘れることができません。
ツナグの正体も少しずつ核心に近づいてゆき、個人的に私はこのお話が最も強く印象に残っています。
『ツナグ』のあらすじ③〈待ち人の心得―愛をツナグ〉
こちらは、依頼人・土谷功一というある男性視点で描かれます。
9年前の春。
功一は、強風にあおられ看板にぶつかり額を怪我した少女を救急車で運ぶ際に同行したことから、この少女と関わりを持つことになります。
その少女は、日向キラリと名乗りました。
派手な服装と濃いメイク。
年は、彼女いわく20歳。
「お礼がしたい」とたどたどしい敬語で食事に誘われ、自分のような男を相手にするような女性ではない、と思いながらも、この日をきっかけに二人は会う機会が多くなります。
キラリは、世間を何も知らず、お金も持ち合わせていませんでしたが、知らないことは知らないと素直に話し、金銭面でも律儀なキラリと日々を過ごすうちに、功一はキラリに好意を抱くようになり、二人は同棲を始めます。
しかし、出会って2年後。
キラリは、友達と旅行に行くといったまま功一のもとには二度と帰ってきませんでした。
実は、この日の直前、功一はキラリにプロポーズをし、婚約指輪を渡していたのです。
彼女が語った名前や住所は全部でたらめ。
婚約指輪は箱ごと消え、一緒に旅行に行ったはずの友達はキラリが旅行に行くことすら知らない。
この日以来、全くキラリの消息がつかめなくなってしまった功一。
周りからは、騙されていたのだからもう諦めろと諭されますが、功一はキラリの純粋であどけない表情や言動を疑うことはできず、ただひたすら帰りを待ち続けます。
キラリが失踪して7年。
功一は、ある老婆との出会いからツナグの存在を知ります。
ツナグがキラリを見つけてしまったら、キラリは死んだということ。
悩み苦しみ、迷った末にツナグに電話をかけた功一が聞かされたのは、
キラリの本名とフェリー事故で亡くなったという事実でした。
キラリが死んだということがどうしても認められず、また自分が会ってしまうとキラリの死が確実なものになってしまうことが恐ろしくて、功一は会うと決まった日に逃げ出してしまいます。
生者にとっても、死者にとっても会える日は一夜のみ。
その日を逃してしまえば、もう二度と会うことはできません。
功一は、夜が明けるまでにキラリと会う覚悟が決まるのでしょうか。
また、キラリから功一への想いや、偽名や旅行の真実は何だったのか。
とっても切ないお話ではありますが、愛する者の死について深く深く考えさせられ、どんな小さなことでも想いは伝えられるうちに伝えておくべきだと痛感します。
今回は3つのお話のあらすじを紹介しましたが、残りの2作品も含め、生者と死者が紡ぐ最後の物語をぜひご自分の目で見届けてみてください。
最後のお話では、ツナグ自身の物語が明かされ、ツナグとよばれる使者のルーツや葛藤、そしてここまでの4つのお話がツナグ目線で語られます。
死者と会うか会うまいか、生者が激しく葛藤する中で、ツナグは一体何を想っていたのか。
また、ツナグだけが知る生者と会う前の死者側のお話も、とても切なく涙腺が刺激されます。
ツナグの想いを知った後で、もう一度はじめから読み返すとまた新たな感情が生まれ、とても面白いですよ!
小説『ツナグ(辻村深月)』はここがおすすめ!
『ツナグ』おすすめ①〈それぞれ異なる想いの形〉
『ツナグ』はそれぞれ話ごとに、「アイドルとファン」「親子」「親友」「恋人」「家族」のテーマで構成されています。
血のつながりの有無や、性別、年齢。
これらが違えば、愛や感情、絆の形もすべてそれぞれです。
だからこそ、世代を超えて様々な人の心に強く響き、まるで自分のために書かれた話のようだと錯覚してしまうのだと思います。
話や登場人物によっては共感できたりできなかったり、一番印象に残ったお話も読む人それぞれで異なると思います。
読んだ人同士で、「私はこれが好きだった」「この人のこの感情は理解できない」など、意見を交わしてみるのも新たな発見があるかもしれませんね。
『ツナグ』おすすめ②〈現実とフィクションの狭間〉
『ツナグ』に登場する人々はみんなとってもリアルな現実を生きています。
人間関係がうまくいかなかったり、友人に嫉妬したり、恋人と幸せな日々を過ごしたり…。
ただひとつ異なることは、
「生者と死者がツナグを通して会うことができる」
これに関してはあくまでもフィクションの話であり、今のところ実現は不可能です。
舞台は東京で、登場人物の感情もとても人間味にあふれ、身近に感じてしまいますが、
現実を生きる私たちは、死んでしまった人には二度と会うことができません。
それは、もちろん死者も同じこと。
伝えたいことを何も伝えられず、死んでしまう場合の方が圧倒的に多いのです。
自分や大切な人がいつ死んでもおかしくない時代。
この本を読むと、感謝も悲しみも醜い感情も、お互いに生きているからこそ、直接伝えられるものなのだから、生きているうちに伝えられることは伝えたいと強く思わされます。
『ツナグ』おすすめ③〈死者と再会するということ〉
ツナグは、作中で「死者に会うという行為は死者に対する冒涜ではないのか」と疑問を抱きます。
死者は、生者のエゴのために存在するべきではないと思ったからです。
また、死後に会うという行為のすべてがプラスに繋がるわけではありません。
会ったからといって、伝えたいこと全てを伝えられないかもしれない。
会ったことで、前に進めなくなるかもしれない。
もし、現実にツナグがいたとしても、私は死者に会うことをとてもためらってしまうと思います。
もう一度会うということは、同時にもう一度本当の別れを迎えてしまうということでもあるし、それならばもう二度と会わずに人生を歩んだ方がお互いに幸せかもしれないと考えてしまいます。
亡くなった大切な人に本当に本当に会いたいと思いますか?
『ツナグ』のすべての物語を見届けたあと、ぜひ考えてみてください。
おわりに:小説『ツナグ(辻村深月)』の感想
心が少し疲れてしまった時、私はいつも『ツナグ』に手を伸ばしてしまいます。
悲しみに暮れながらも生きるためにどうにか前へ進もうとする生者も、
そんな生者を見守り強く優しく言葉をかける死者も、
今を生きる私たちの人生においてどちらもとても大切なことを教えてくれます。
誰かのやさしさに触れたくなった時や、どん底に落ちてしまいそうな時。
ぜひ、一度『ツナグ』を手に取ってみてください。
きっとあなたの心にあたたかくて優しい光を灯してくれると思います。