「このライトノベルがすごい!2021」で文庫部門1位となった『千歳くんはラムネ瓶のなか』。
この爽やかな、文学的な香りすら感じられるタイトルに惹かれて読み始めたライトノベルは、なんと「リア充」が主人公でした。
「リア充」とは? 簡潔に言うと、スクールカーストに支配された青春時代を苦も無く明るく爽やかに、たくさんの仲間に囲まれて過ごしている光属性の人のことです。
彼らとはまるで正反対の日陰者、「非リア」として高校時代を過ごした私にとって、癒しのライトノベルの主人公、それも高校生がリア充だなんて!
なんてライトノベルだ! と裏切られたような気持ちになりました。
しかし、読み終わる頃には主人公、そしてその友人たち——「リア充」である彼らのことが大好きになった私がいました。
私が主人公、千歳朔と彼の周囲のリア充たちに「ハマった」わけを、シリーズ一巻のあらすじと感想でお伝えします。
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この記事の本文は読書家ライター・緋衣箒さんに書いて頂きました!
『千歳くんはラムネ瓶のなか』のあらすじ
『千歳くんはラムネ瓶のなか』のあらすじ①:リア充、非リアの世話を任せられる
優れた容姿と要領の良さでスクールカースト上位に君臨するリア充の中のリア充高校生、千歳朔。二年生になった彼のクラスには、不登校中の生徒、山崎がいます。
担任の岩波から山崎を学校に連れてくるようにとのミッションを受け、山崎の自宅へと向かった千歳を待っていたのは、リア充を嫌う非リアで引き籠り真っ最中の山崎でした。
『千歳くんはラムネ瓶のなか』のあらすじ②:リア充は非リアを、非リアはリア充を「知る」
案の定、千歳たちを拒絶する山崎に対し千歳は「相互理解を始めよう」と語りかけます。千歳の大胆な行動と緻密な戦略によって、山崎は次第に千歳たちの話に耳を傾けるようになります。
千歳は山崎が自分たちリア充を嫌う理由を聞き、肯定すべきところは肯定し、否定すべきところは否定することで、山崎の中の凝り固まったリア充像を壊していきます。
併せて山崎の好きなライトノベルのシリーズを全巻読破し、彼の好きなものを「知ろうとする」姿勢を見せるのです。千歳が山崎に提示した相互理解、すべてはそのために。
千歳とその友人たちに対し勝手なイメージを抱いていた山崎は考えを改めはじめ、自分が登校拒否をするに至った原因を千歳に語ります。
『千歳くんはラムネ瓶のなか』のあらすじ③:非リア、非リア脱却を目指す
山崎を引き籠りにした原因は、一人の少女への恋心をその少女本人に嘲笑われたことでした。
少女とその取り巻きにバカにされた山崎は、彼女たちを見返すべく自分をリア充にしてほしいと千歳に頼みます。
千歳は承諾し、三週間にわたる山崎へのリア充指南が始まるのでした。
学校で、ショッピングモールで。外見や服装、コミュニケーション方法に関して千歳と友人たちから指南を受ける山崎は、少しずつ変化していき、千歳もときに悩みつつ彼と付き合っていきます。
『千歳くんはラムネ瓶のなか』のあらすじ④:リア充と非リア、相互理解のその先に
千歳たちを敵視するクラスメイトたちとのトラブルもありつつ、山崎へのリア充指南は順調に進みました。
しかし、最終日にある出来事によって山崎は千歳たちを信じられなくなり、両者の仲は決裂してしまいます。
山崎は非リアを脱却できるのか。千歳はどうするのか。
リア充と非リアの青春ストーリー。その結末はぜひ、『千歳くんはラムネ瓶のなか』を読んでお確かめください。
『千歳くんはラムネ瓶のなか』はここが面白い!
『千歳くんはラムネ瓶のなか』はここが面白い①:千歳朔というヒーロー
『千歳くんはラムネ瓶のなか』の一番の魅力は何といっても主人公、千歳朔です。
主人公の千歳がリア充だと知ったとき、私は「主人公は誰からも愛される聖人君子かしら」と想像していました。
ところが、プロローグから予想を裏切られました。主人公は異性に惚れられやすく、結果として同性から蛇蝎のごとく嫌われ「ヤリチン」とまで揶揄されているのです。
そしてその現状に対し、千歳は嘆くこともなく受け入れているのですから驚きです。
リア充だからといって誰からも愛されるというわけではない、というのはわかりましたが、どうしてそこで腐らずに超然としていられるのだろうと疑問に思いました。
答えは物語序盤で提示されます。
美しく生きられないのなら、死んでいるのとたいした違いはない。
裕夢『千歳くんはラムネ瓶のなか』(ガガガ文庫)より
これが千歳の持つ美学なのです。
千歳は作中を通して、「千歳朔としてどうあるべきか」を意識して行動します。自分がこうありたいと思う自己の姿を実現するべく、千歳は行動するのです。千歳は完全無欠のヒーローなのではなく、ただそうあろうとしている一人の人間なのです。
千歳のこのブレない姿勢、哲学的な信念が友人たちとその助力を引き寄せ、リア充を嫌う山崎の心に変化を及ぼしていきます。
超能力を持っているわけでもない普通の人間である千歳が地道な努力を重ね、ヒーローとしての自己を確立させている姿は眩しくも危うく、いとおしく感じます。
リア充なんて……と思っていた私が魅了された千歳朔というヒーローの姿を、ぜひご覧いただきたいです。
『千歳くんはラムネ瓶のなか』はここが面白い②:等身大のキャラクター
主人公千歳の友人たちは同じリア充に分類される男女です。
彼らは千歳を信じて彼を助けたり、ときには忠告したりと、それぞれ確固たる信念をもって行動します。
自分をしっかりと持っている彼らも、千歳に負けず劣らず魅力的です。
少しだけ登場する先輩の女子生徒は、ミステリアスながら千歳との掛け合いが印象に残りました。
千歳たちのクラス担任でつかみどころのない教師、岩波と千歳の会話も印象的です。
また『千歳くんはラムネ瓶のなか』一巻では千歳とその友人たちリア充と非リアの山崎、この両者の関わりに主に焦点が当てられていますが、もちろんその二種類に当てはまらないキャラクターたちも登場します。
千歳たちに対抗心を燃やして突っかかってきたり、山崎にちょっかいをかけるリア充(?)たち。
山崎が引き籠る原因になった少女たち。
舞台が高校とあってほぼ高校生で構成された登場人物たちは、それぞれ弱さを隠したり、露呈したりしながら生きています。
ときに痛々しさすら感じる人物描写によって、等身大のキャラクターが織りなす物語が出来上がっています。
『千歳くんはラムネ瓶のなか』はここが面白い③:物語を彩る詩的な情景描写
『千歳くんはラムネ瓶のなか』の魅力はキャラクターだけではありません。情景描写にバランスよく織り込まれる詩的な表現が美しく、やみつきになります。
北陸の長く、どんよりと陰鬱な冬を超えて吹く風は、さよさよと頬をすべり、ほあほあと暖かい。
真っ赤に染まる夕陽をバックに、彼女はふわりと微笑んだ。濡れて頬に張りついた髪の毛も、泥で黒くなった鼻の頭も、靴下まで脱いだ裸足の足の小さなつま先さえ、なぜだかとても尊く、美しいもののように映る。裕夢『千歳くんはラムネ瓶のなか』(ガガガ文庫)より
リズミカルな文章は読みやすく、一つひとつがきらめいているようで、読んでいて心地よいです。
おわりに:『千歳くんはラムネ瓶のなか』の感想
この小説を読み終えた時私は、決して自分のものとしては手に入れられないけれど、美しくきらめく思い出を一つ手に入れたような気持ちになりました。
綺麗なだけではないけれど、たしかに綺麗なものもある青春の一ページ。
リア充と非リア、同じ世界を違った視点で見てきた千歳と山崎の「相互理解」を主軸に繰り広げられる物語に、他者への理解、自分の周りの世界の受け止め方について考えさせられます。
ストーリーは全体的に明るい雰囲気で、スクールカーストという重みのある問題を絡めながらも娯楽性の高い作品です。
そのストーリーを引っ張る主人公、千歳朔もまた明るく、そして深みのあるキャラクターです。
リア充の肩書を持つヒーロー、「千歳くん」の物語に注目です。