『悪童日記』のあらすじ&感想【”仕掛け”ゆえに映像化は不可能?】

私が高校生の時に出会い、衝撃を受けた作品の一つ。

2013年にドイツとハンガリーの合作で公開された映画をご存知の方もいらっしゃるかもしれませんね。
これは作者であるアゴタ・クリストフの処女作でありながらベストセラー本。

実はこの『悪童日記』は続編を含めた三部作(二部『ふたりの証拠』、三部『第3の嘘』)なのですが、その内容や手法から続編へ進むたびに「まさか!」と思わず叫んでしまうような大きな驚きが読者を待っています。

というのも、この”仕掛け”ゆえに「映像化は不可能」とまで言われていた作品だったので、まさかの映画化に驚いた人は私も含めて少なくないのではないでしょうか?

「少し気になる…」と思った方は、三部作の中でも一番読みやすい本作からぜひ始めてみてください。読書と併せて上述した映画も一緒に観てみると更に楽しめるかも!

それでは今回もネタバレはしない程度にあらすじと感想を紹介します。

ブログ運営者より:
この記事の本文は読書家ライター・なにわさんに書いて頂きました!

『悪童日記』のあらすじ

悪童日記

『悪童日記』のあらすじ①:大戦下の過酷な時代を共に生きる幼い双子

戦争がますます激しさを増してヨーロッパに暗い影を落としている時代。
疎開するために”大きな町”から”小さな町”の祖母のもとへと連れてこられた双子の「ぼくら」。

その祖母は周りから”魔女”と呼ばれ疎まれており、孫である双子にも容赦なく厳しく振る舞うような人でした。

まだ子供であっても人並みに働かなければ食事も一切与えてもらえず、周りの大人からも理不尽な暴言や暴力をふるわれるような環境の中で双子は「強くあらねばならない」と決意して彼らなりの方法で精神的・肉体的な鍛錬を始めます。

『悪童日記』のあらすじ②:順応していく双子

人間の醜さ、残酷さ、不条理さに翻弄されながらも一心同体の双子である「ぼくら」はそれに負けじとしたたかに、そして時には恐ろしいほどの無感情を貫いてこの時代を生き抜いていきます。

鍛錬の成果もあり、少しのことでは動じない強さを手に入れた双子には友人もでき、祖母との関係も少しずつ違ったものへと変化しました。

そしてこの土地でそれなりに生き抜きながら、ただ続いていく日々に徐々に順応していきます。

『悪童日記』のあらすじ③:終戦、そして訪れる変化

終戦後、ついに母が双子を迎えに来ました。
その腕には生まれたばかりの妹(父との子ではない)が抱かれており、母の付き添いの軍人も双子を連れて行こうとしますが「ぼくら」は頑なにそれを拒否します。

そんな中、命に別状はありませんでしたが祖母も脳卒中で倒れてしまいます。
捕虜となっていた父も、母に少し遅れて双子の元へと帰還しました。
そして国境を越えなければまた捕まってしまうから、と双子に越境の手助けを求めます。

大人の事情や、めまぐるしく変わる環境にも双子は冷静に対処します。
その中で彼らは何を感じ、どのような人生を選択するのでしょうか?

この『悪童日記』はまさしく”悪童”である「ぼくら」が綴る日記調のお話となっており、彼らが目にする非情な現実と自身の成長を克明に記した記録です。

『悪童日記』はココがおすすめ!

  1. 固有名詞が一切出てこない
  2. 双子の恐るべきひたむきさと独特のルール

『悪童日記』おすすめ①:固有名詞が一切出てこない

本作の大きな特徴であり、またとても興味深いのが、お話の中に人名や土地名などの固有名詞が一切出てこない点です。

例えば「大きな町」「おかあさん」「ぼくら」「おばあちゃん」「靴屋さん」など呼び名によって大方の想像はできますが、あくまで総称的なものばかりです。

しかし、読んでいくうちに固有名詞は出てこなくても内容から察するに第二次世界大戦時のハンガリー(作者の出身国)が舞台であることが容易に想像できます。

そして人間の仄暗い部分や戦争・宗教などを真正面から考えさせられる描写も多々あります。

ハンガリー、ユダヤ、ポーランド、ドイツ、ロシア。
強制収容所、戦争、亡命、宗教、ナチス。

もうこのキーワードだけで「ああ…ものすごく暗い話に違いない…」と気が重くなりますよね。
私も最初はそう思っていたのですが、面白いことによくある”戦争や英雄を扱う小説”や”お涙頂戴ストーリー”とは全く違うのです。

「ぼくら」の無感情な文体に想像力がかき立てられる不思議。

悲観的な要素はそこになく、ただ”その時に起きたそのままの事柄”を捉えて淡々と日々の出来事を双子が書き綴るこのお話(日記)はまるで現実味のないファンタジーのような、もしくは語り手のお話を聞いているような程よい距離感を読者に与えます。

その距離のおかげで

”戦争とは?”
”人間とは?”
”生きることとは?”

と自然に、そして冷静に考えられるのです。
これはとても大事なことで、でもこれをゆるす作品はそう多くないのではないでしょうか?

あと終始感じたのは、その現実味のなさからくる”ノンフィクションなのかフィクションなのか全くわからない”という不気味さ。不思議とどんどん引き込まれます!

『悪童日記』おすすめ②:双子の恐るべきひたむきさと独特のルール

さて、あと個人的に少しおもしろいなと思ったのはどんなに過酷な状況に置かれても「ぼくら」が絶対にそれに屈しない点です。

まだ幼く、本来であれば庇護される立場であるにも関わらず辛い状況に置かれても決して絶望しないし屈しない。
彼らが考えるのは「じゃあどうすればそれに打ち勝てるのか」ということのみ。

戦争で教育の機会を奪われたので、祖母の家にあった聖書を使って独学で勉強する。

理不尽な暴力に屈したくないので、互いを殴り合って痛みに対する耐性をつける鍛錬をする。

寂しさや恋しさで傷付きたくないので、母親からの手紙を燃やしたりして心を殺す練習をする。

とにかく冷静に、そして無感情に周りを観察・研究して冷酷さを武器にする。このポリシーは双子が定めた日記の記述ルールにも色濃く反映されています。

こんな”努力と鍛錬”を続けるうちに身近な者の死にも動じず、必要であれば窃盗や殺人を犯すことも厭わない「強い人間」になっていく双子の少年たち。
でもそこには彼らなりの正義や規範がきちんと存在するので、罪悪感はありません。

少年から”少年らしさ”を全て奪うことで手にした強さを持って「ぼくら」は人生の次のステージへと進んでいきます。

おわりに:『悪童日記』の感想

決して楽しく読めるテーマの本ではありませんが、それ以上に得るものが多い作品です!

孤独・いじめ・パラフィリア・差別・サディズムなど戦争以外にも多くの要素を含んでいて奥深いですし、作品の内容以外にもこの作者の独特な文体は必読です。

余計な情報・感情を徹底的に排除しており、とてもシンプルで朴訥な言葉で綴られているのにも関わらず情景が目に映るような描写。

そして戦争のおぞましさ、人間の狂気、無垢な子供ゆえの残酷さを赤裸々に綴りつつも、エンターテイメント性も失わない凝った演出。

「残虐な描写と性的な描写の容赦なさでは私が今まで読んだ本の中で恐らくトップ3に入るのでは…?」と思うくらいには度肝を抜かれる表現も多いんですが、なぜか不思議と非現実感があり、悲惨になりすぎないんです。

これは登場人物にもうまく作用していて「ぼくら」がどんなに酷い目にあったり、平然と性行為や殺人などの犯罪を犯しても彼らの強烈な個性ゆえにどこか痛快に感じてしまうし、そこに生き抜くための逞しささえ感じます。

なのにじわりとする不気味さは消えないまま。

他のキャラクターたちも決して悪人でも聖人でもないように(その行為や状態のみを)描かれています。
1話が2〜4ページと短いので読みやすいですし殺伐とした中にも優しさがある、そんな不思議な文章で構成されています。

そして何よりも、ラストシーンはきっと衝撃を受けること間違いなし!
好き嫌いが分かれる作品だと思いますが、ぜひ読んでみてほしいです。

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